<武蔵野大学附属千代田高等学院の改革>

  • 男女共学化
  • 国際バカロレア認定校となり、5つのカリキュラムを新設
  • 法人合併により武蔵野大学の附属校となり、高校から大学の単位取得を行うなど、高大連携を推進
  • 隣地に千代田インターナショナルスクール東京を開設し、小中校一貫の国際バカロレア教育を推進

  • ──まず、共学化や国際バカロレアを導入するに至った理由をお聞かせください。

    荒木貴之(以下、荒木) 国際バカロレアは「世界市民の育成」という壮大な理念があります。一方、本校は1888(明治21)年、「国際教養人の育成」という理念のもとに創立された学校であり、極めて近似性があります。国際バカロレアを導入すれば、130年の伝統や方向性を大きく変えずに、世界基準の教育機関としてバージョンアップできるのではないかと考え、導入を決めました。
     当初は、共学化や国際バカロレア導入に対して、反対の声も多かったのです。国際バカロレアの申請は2016年3月末、共学化と校名変更の公表をしたのは2017年4月15日。1週間前には女子校として入学式を終えていたわけで、講堂で「来年から共学にします」と伝えたら、生徒の悲鳴で講堂が揺れた(笑)。親御さんや卒業生OBからの「130年も続いてきた伝統的な女子教育をなぜ守れないのか」という声も、正直いまだにあります。
     もちろん、少子化の影響で経営的に苦しい私立学校は増えており、そういう経営上の判断もなくはありません。しかし、私がこの改革に踏み切ったのは、世界に通用する人材を育てるために「多様性」が必須だと思ったから。男女共学化、母国語と英語での授業というのも、性別や言語の多様性を目指した結果です。隣接のインターナショナルスクールの生徒と合わせて約1,000名の生徒が、ちょっとした日本の未来──つまり多様性が求められる環境を早めに経験できる。この多様な教育環境こそが、個人の能力の開花や責任ある行動をとるための態度とスキルを身につけるのに非常に有意だと私は考えます。

    ──本校の新しい5つのカリキュラムはどのように決定されたのでしょうか。

    荒木 人にはぞれぞれの得意なものや、個性、知性があります。例えば数学や体育のようなものから、リフレクションインターパーソナルスキルで知性を発揮する人もいる。それらに即した教育を行うため、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授による「多重知性理論」をアレンジして決定しました。

    <共学部>

  • IB(国際バカロレア)…国際バカロレア資格を取得し、国内外の大学への進学を目指す。
  • IQ(文理探究)…高校の探究を継続できる国内外の大学進路選択の実現を目指す。
  • GA(グローバル・アスリート)…スポーツによる大学進学、クラブチーム・オリンピックでの活躍と学業との両立を目指す。
  • <女子部>

  • LA(リベラル・アーツ)…留学を推進し、国内外大学への進学を目指す。
  • MS(メディカル・サイエンス)…武蔵野大学薬学部および看護学部をはじめとする医療系大学への進学を目指す。
  •  本当は、一人ひとり個別のカリキュラムをつくりたいくらいなんです(笑)。そこで不可欠なのが、ITやネットワーク。デジタルデバイスなどが日本の学校教育にもようやく浸透し、AIで最適な問題を学習者に与えることもできるようになりました。得意な分野や興味に最適な個別カリキュラムの作成が、近い将来可能になると思いますよ。
     ただ、そうなった場合、「そもそも学校は必要なのか?」という問題が出てきます。VRやARが進めば、自宅の部屋に学校や教室を再現できるようになる。一方で、多様性が広がれば広がるほど、協働的な課題解決能力が必須になります。学校や教室という設えは、物理的な空間ではなくなったとしても、必要かもしれないですね。

    ──共学化や国際バカロレアは今年(2018年)4月にスタートしたばかりですが、生徒の反響はいかがですか? また新入生はどのようなタイプが多いでしょうか。

    荒木 まず、男子が入ってきたのは率直にみんな嬉しいのではないかと。今年の新入生は137名で、女子部の入学者は84名、共学部は53名。その53名のうち、男子は27名、女子は26名です。他の学年は全員女子だから、全校生徒約300人中、27名が男子ということになる。先日の体育祭は、全校生徒から男子に対する熱い応援がありました。これまでの体育祭の雰囲気とぜんぜん違っていましたよ。
     新入生は男女ともに、「何かやりたい」「何かできそうだ」という子たちが集まってきたと思います。国際バカロレアはスタートしたばかりで、まだ進学実績も出ていないのに、そこに飛び込んできた彼らは、言わばリスクテイカーと言える。
     オーストラリアのブリスベンで5年過ごした帰国子女は、入学式の代表挨拶で「将来はケンブリッジ大学で政治学の勉強をしたい。そのためにこの高校に来ました」と英語でスピーチしてくれました。GAコースには、地方出身者で東京の伯母の家に下宿しながら通っている子がいますが、彼も入学式の日、「僕は高校3年生で東京オリンピックを、大学4年生でパリを目指します」と言いました。非常に自分の未来の目標が明確なんです。しかも、そういう生徒に刺激を受けて、周囲の生徒たちも非常に前向きになるのが素晴らしい。
     新入生の母親も感度が高いと言えるでしょうね。自分たちが受けた偏差値教育にはこだわらず、「ここなら我が子のやりたいことが実現できる」と、我が子の背中を押した。これまでの保守的な母親とは違って、彼女たちもリスクテイカーなんです。結局、リスクテイクこそが、子どもたちが主体的に未来を生きるための土台になるのだと思います。

    ──授業の様子はいかがですか。

    荒木 非常に主体的ですね。国際バカロレアの導入に合わせて、アカデミックリソースセンター(ARC)を創設したのですが、授業や放課後で活発に利用されています。
     これからの時代はクリティカルシンキング(批判的思考)、つまり見極める力が大事です。その力を養成するのに、協働で勉強できる環境は非常に有効です。放課後でもひとりで勉強するのではなく、誰かと一緒に勉強したり、可動式のホワイトボードを持ってきて複数で議論をしたりして、いろいろな学習の方向性をもった場所になっています。
     やはり、得意な分野はそれぞれ違うので、協働で学習することによって、それぞれの個性やひらめきが多数投入され、大きなアイデアにつながっていく。さまざまなものを持ち寄って勉強できるということは、これからの子どもに絶対に必要な「探究心」に繋がっていくと思います。

    ──生徒たちに目立った変化は感じられますか。

    荒木 明らかに変わってきていると感じます。もともと本校は生徒一人ひとりに対して非常な丁寧な教育をしていた。修学旅行なんかも先生が綿密な計画を立てていた。それは教師が生徒に向き合って熱心に指導するという意味で非常に良い教育だと思いますが、一方で生徒が考える力や発想する力を奪っていたような気がするんです。
     いまはそれが変わってきていて、生徒自らなんでも企画するようになりました。学校説明会も、生徒が司会進行や保護者アテンドを行っています。本校は「いかに集団に対して奉仕できるか」、つまりサーヴァントリーダー(奉仕精神あふれるリーダー)の育成を目指しているのですが、その精神をしっかりと生徒も受け留めているんですよね。生徒からは「この学校を自分たちがつくっている」という意識、「この学校の構成員のひとりだという」自覚を感じます。
     10年後はおそらく、生徒がこの場所で力を存分に伸ばしていけるような学校になっていくだろうという気がします。多彩な生徒が集まり、それに触発されて全体として良い学びの集団になっていくのではないかと。生徒主体でどこまで伸びていくのだろうと、非常に期待しています。


    国際バカロレア
    1968年に設置された国際バカロレア機構(IBO/本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。21 世紀のグローバル社会で活躍できる、よりよい平和な世界を創造できる「世界市民の育成」をモットーとする。2017年6月の時点で、世界140以上の国・地域、4,800校以上において実施。

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    リフレクション
    日常の業務から少し離れてこれまでのことを振返り、内省すること。実務での「経験」を学びとしての「知恵」にしていく活動。

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    インターパーソナルスキル
    1対1の対人関係で必要なスキル。関係性の構築、協調性、影響力など。

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    多重知性理論
    1983年にハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナー教授が提唱した理論。人はみなそれぞれ一組の多重知性を持っており、8つの知的活動の特定の分野(言語的知能、論理数学的知能、音楽的知能、身体運動的知能、空間的知能、対人的知能、内省的知能、博物的知能)で才能を大いに伸ばすことができると説いた。

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    取材・文:堀 香織  撮影:野村恵子


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