>>【前編】武蔵野大学附属千代田高等学院 荒木貴之校長インタビューを読む


──荒木校長は、東京都の理科教諭から教育委員会を経て、京都・立命館小学校の新設に携わっていますね。

荒木貴之(以下、荒木) 東京都教育庁指導主事時代に、スーパーサイエンスハイスクールの視察で立命館高校を訪れたのですが、そのときに「小学校新設を手伝ってほしい」と言われたんです。
 立命館小学校は2006年に開校され、私は副校長として、国際社会で活躍する次世代リーダーの育成を目指し、立命館中学校・高等学校と合わせた一貫教育に取り組みました。特に、小中高の6年・3年・3年という区切りを4年・4年・4年という3つのステージに分けて考え、例えば小学5年生から始まるセカンドステージでは自ら課題意識をもって学習に取り組むようなカリキュラムを展開しました。
 また、子どもの理科離れの対策としてサイエンスを重視したものづくり体験学習「ロボティクス科」も立ち上げ、小学1年生からロボットづくりを中心に算数の学習やサイエンス、テクノロジーに至るまでの幅広いユニークな学習を行っています。現在は各教室にプロジェクターや電子情報ボードが設置され、5、6年生には一人一台のタブレットを所持しています。
 そのようなIT教育の実体験を、本校でも積極的に活かしたいですね。一度、立命館小学校で行われた日曜参観にアメリカの科学者であり、「パーソナル・コンピューターの父」とも称されるアラン・ケイ博士がいらして、講演をしてくれたんです。そのときに「未来がわからなければ、つくればいい」と言われたことが本当に衝撃だった。改革には反対の声がつきものですが、「私達はちょっと先の未来を少しずつだけどつくっているんだ」という自負を持って進めています。

──IT教育との最初の出会いはいつですか?

荒木 いまから24年前、通産省が始めた「100校プロジェクト」のときです。全国100カ所程度の学校にインターネットの利用環境とサーバー・クライアント各1台を提供し、ネットを利用した実践的な教育がスタートした。私は当時東京都の教員でしたが、新潟県の上越教育大学大学院に派遣され、中郷小学校とのIT 教育をサポートすることになりました。
 具体的には中郷小学校とアメリカの学校がつながって、交流学習を行ったのですが、これが非常に刺激的な経験だった。英語で交流するので、翻訳ボランティアをネットワークで探したりして、社会を巻き込んだグローバルな教育の可能性を体感しました。

──そのグローバルに人と人がつながれるこの時代に、子どもに求められる能力とはなんだと思われますか。

荒木 これから求められるのは、自分の学習をコントロールする力でしょう。計画を立てて順序だてて学習できる力が、それぞれの個性や能力を飛躍的に伸ばします。ある研究者は、学習をコントロールすることに長けている子どもの特徴として、ネットワークにあるリソースの使い方の上手さを指摘しています。学習には困難な状況が絶対にありますが、どこの誰に聞けば解決できるかが彼らはすぐにわかる、というわけです。
 また、これからは「0から1をつくり出す」能力が人間にとって必須になってきます。検索したものを成果として出すのであれば、誰でもできる。そうではなくて、違う考えや違う意見を持っている人とうまく折り合いをつけながら、落としどころを見つけて新たな回答を導き出すという力が必要なのです。AIは結局、0から1は生み出せない。それを生み出すのが人間である、ということです。
 そのために、学校でITやネットワークに慣れ親しませておくことは大事でしょうね。これはITやネットワークの使い方に限りませんが、学校は子どもたちが何度でも失敗して理解を深める場所、社会に出るための準備期間を過ごす場所として、これからも機能しなくてはならないと思います。

──最後に、未来を担う子どもたちのお母さんへ、メッセージをお願いします。

荒木 いまのお母さん方は、自分の子どもたちの将来に対して悲観的な人が多いように思います。例えば、AIや外国人に職を奪われるとか……。でも、私は幸せな未来が待っていると思っている。ITやネットワークなどに振り回されず、人間にしかできない能力をきちんと身につけてさえいれば、幸せな未来は待っているんです。
 ですから、お母さん方もITやネットワークなどを十分に使ってもらいたいと思います。自分がそれらを使って物事を判断する側に回ること。自分の生活の豊かさのためにそれらを使うこと。つまりITやネットワークで情報を得て時間の効率化などを担保して、お子さんとの関わりや家族の時間を充実させるなど、本来の人間的な活動にたっぷりと時間を割いてほしい。おそらく母親のそういう姿勢が、お子さんに良い影響を与えるのではないかと思います。




アカデミックリソースセンター(ARC)コーディネーター
ドゥラゴ英理花先生インタビュー

 2017年夏、米スタンフォード大学の「d・school」を参考に、図書室をリニューアルして「アカデミックリソースセンター(ARC)」を新しく設置しました。現在は生徒同士の議論を活発化するアクティブラーニングスペース、図書室の蔵書を集めた資料ライブラリー、カフェのようにくつろげるインターネットスペースと3つの空間で構成されています。

簡単に配置を変えられるスタッキングテーブルとチェアを設置し、授業内容によって自由にレイアウトを変えられるようにしたアクティブラーニングスペース。

 図書室はこれまでリソースを調べるだけの場所でした。私たちは従来のひとりで勉強するスタイルではなく、協働で勉強できる環境を整えることにしました。協働で学ぶと、個々人の特徴的な思考や得意な分野が合わさって、ひとりでは考えつかない新しいアイデアが生まれます。生徒の“創造の場”となる、それがARCの目指したいちばんのコンセプトです。
 もうひとつ大事なことが、デジタルとアナログの融合です。ひとり一台のパソコンを使用する一方、自分の考えをまとめたり、みんなに共有したりが簡単にできるホワイトボードも活用してほしい。図書室の古い文献も、インターネットでは探しきれない情報や資料が満載です。これからの人間に求められていくのは、AIにはない探究心。ARCはその探究心を育てる場所にもなっていってほしいです。

年間数百冊の書籍が入荷する資料ライブラリー。


 アクティブラーニングの最初の授業としては、130周年記念プロジェクトの一貫で、ドローンで空撮した100枚近い画像をもとに教育版マインクラフト(立方体のブロックを自由に配置して建築などを楽しめるコンピュータゲーム)上で校舎をモデリングしました。生徒たちは私の指示など待たずに、「私はこの教室のこの部分をつくる」「僕はドローンを飛ばして撮影する」「自分は画像データを処理する」と、自ら役割分担をしていきました。

エントランスに設けた自由に使えるスペース。生徒たちはそれぞれ個別に読書や協働での議論などを活発に行っている。

プログラミングが得意な子はプログラミングを、デザインが得意な子はデザインを、建築が得意な子はひたすらブロックを積み上げて、ひとつの大きなプロジェクトを完遂させたのです。
この10月の修学旅行ではシアトルのマイクロソフト社を訪れ、マインクラフト開発チームの皆さんへ生徒がプレゼンをしました。生徒たちにとって、素晴らしい経験になりました。





100校プロジェクト
日本におけるインターネットの教育利用に先導的な役割を果たしたプロジェクト(正式名称「ネットワーク利用環境提供事業」)。通産省の外郭団体「情報処理振興事業協会」が、平成5年度の第3次補正予算で開始した「特定プログラム高度利用事業」のプロジェクトのひとつ「教育ソフト開発・利用促進プロジェクト」の主要な実験テーマ。

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取材・文:堀 香織  撮影:野村恵子