学校と保護者や地域住民がともに知恵を出し合い、学校運営を行っていく「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」。京都市立御所南小学校は、2002(平成14)年の文部科学省による最初のコミュニティ・スクール指定校であり、2008(平成20)年からは公立小学校では珍しい小中一貫校になりました。前編では学校の成り立ちや、コミュニティ・スクールとしての特色、具体的な授業の内容とそれに関わる地域住民や教師の関わり方を平岡修一郎校長にお尋ねします。

 

── 御所南小学校がコミュニティ・スクールであることの特色や魅力を教えてください。

平塚修一郎(以下、平塚) まずは御所南小学校の成り立ちからお話しましょうか。

1872(明治5)年に制定された学校制度より早く、京都では「番組小学校」が創設されました。これは東京奠都の際に人口が3分の2ほどに減少し、京都の将来を不安視した地域住民が「街づくりは人づくり」だということで、竈別出金(通称:竈金)いう制度を使ってお金を集めてつくった学校です。つまり、番組小学校は地域のコミュニティの中心でもあり、大人が大勢集まって子どもの教育について語り合っていた場所。本校はそのような番組小学校として開校した5つの小学校(梅屋・春日・龍池・竹間・富有)が、1995(平成7)年に統合されてできた小学校です。

 

そういった歴史もあり、1997(平成9)年度に文部省(当時)から研究開発学校の指定を受け、総合的な学習を中心にしたカリキュラム開発を行ってきました。現在では学校と地域コミュニティが連携・協働する「御所南コミュニティ」という組織があり、保護者や地域住民による80人のボランディア・コーディネーターが6つの部会に分かれて、子どもたちを支援しています。また、300人を超えるコミュニティ・ティーチャーがおり、生活科や総合学習を中心に各方面の専門家による授業も行っています。

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── 具体的にはどのような支援や授業が行われているのでしょうか。

平塚 例えば1・2年生は、生活科で御苑の豊かな自然に触れ合ったり、街の探検に出たりします。3〜6年生の総合的な学習では学年ごとにテーマと単元があり、伝統文化や伝統工芸など地域に学んでいます。それぞれの学習に関わっていただく専門家の方と進め方や組み立てを話し合って授業を作っています。また、御所南コミュニティ委員の方々(地域の方や保護者)には子ども達にとって有意義なカリキュラムや事業を考え提案して頂いています。それらのカリキュラムや行事の内容は教師がすべてお膳立てするのではなく、保護者が教師と話し合いながら進めていくのです。プリントや名簿も保護者の手づくり。その後、子どもたちに感想を書いてもらい、次回に活かしていくので、内容は毎年どんどん洗練されていきます。

 

例えば、勉強や運動でつまずきやすくなる3年生から4年生にあがる際の「10歳の壁」というのがあります。特に具体的思考から抽象思考への変化についていけない子どもが複数人は毎年いるので、先日の2月は3年生に対して、放課後に算数と国語の漢字のプリントを使った勉強会をコミュニティ委員が開催してくれました。

そうやって保護者や地域の皆さんが教育に関わることで教育の質が高まり、かつ地域の一体感も醸成されます。それがまた地域の活力にもつながっているのでしょう。

── 2008(平成20)年には、高倉小学校、京都御池中学校とともに小中一貫校になりました。その経緯を教えてください。

平塚 当時、中学校には本校と隣の高倉小学校から進学するわけですが、それぞれが学校運営協議会をつくってコミュニティ・スクールの活動を始めたんです。ところが進めるうちに、「小中の義務教育9年間の一貫した学びを進めないと、成果は上げにくいのではないか」という声が出るようになった。そのころ、たまたま京都御池中学校の校舎が新設されることになり、中高一貫校を目指すことになりました。

 

2007(平成19)年度からは、本校の6年生が京都御池中学校の校舎で学習し、中学校教員と小学校教員による連携授業を進めています。これも小学生が中学1年生になったときに、クラス担任制から教科担任制になったり部活動が始まったりと、学校生活や授業のやり方が変わるため、なじめなくて不登校となったりいじめが急増したりするという「中1ギャップ」を想定してのことです。中学の先生にその専門性を活かして小学校の授業に関わってもらうことで小学校教育とはどういうものかを知ってもらえますし、一定のよい成果は出ていると思います。

 

ただし、子どもに本当に力がつくのかを考えたときに、やはり9年間を通して育てる柱となる力を明確にすることが必要ではないかという結論に至ったわけです。それまで本校では「読解科」に特に熱心に取り組んできました。これはPISA型読解力をOECD各国で比較した際、日本のランクが非常に下がっており、本校元校長がわざわざ自費で1位のフィンランドまで出向いて学び、開発した、本校独自の特別教科です。資料から情報を収集し、それを比較したり分類したり整理したりして新しい考えを構築し、小グループで全員が必ず自分の意見を出し合いながら、最後にひとつの意見にまとめていくこと、それを自分の言葉で記述することを読解科としての授業で進めてきました。一方で、読解力を育てる4つの力──課題設定力、コミュニケーション力、記述力、情報活用力には、読書が欠かせません。学校では朝の時間に読書をしたり、国語の教科と合わせて並行読書を行ったりしています。これが非常に新しい教育にマッチしているのではないかということで、小中一貫で行うことになりました。現在は、読解力は読解科の時間や読書だけでなく、普通の科目の授業でも養うことができると確信し、進めています。

── 今回小学5年生の授業を参観させていただきましたが、まず、5年生の5つのクラスの教室はそれぞれオープンスペースと隣接する一面が完全に開放され、壁も扉もないことに驚きました。また、2名の児童が司会を担当して授業を進め、担任の先生はというと、その科目が不得意な児童たちをそばで導く立場に徹しています。

平塚 前述したとおり、本校は児童数の急激な減少の中、近隣の公立小学校が統合してできた学校です。それまで子どもたちは少人数で学校生活を送っていたわけで、「これを機にクラスメイトだけではなく学年一同で切磋琢磨してほしい。そのためにはオープンな場所での学習が必要だろう」と考え、あのような扉のない教室ができました。

 

また、授業の司会を担当するのはその日の日直で、司会と書記というペアになっています。これは小学1年生から行わせており、5年生だとかなり手慣れているかと思います。担任はご指摘のとおり、授業に遅れ気味の生徒に声をかけ、手助けしています。できない子は科目によって違うので、それが司会をたてる良さかなと。教師が授業を進めるとどうしても全体を見ることができませんが、子どもたちが授業を進めることで、教師が遅れがちな子を個別で対応しやすくなるんです。

── ちなみに司会を立てる授業は全科目で行われているのでしょうか。

平塚 基本的には読解科、算数科、社会科、学級活動の4つでしょうか。理科は専科だったり、図画工作は作業がメインだったりするので司会は置きません。先生によっては国語科や道徳の時間、総合的な学習の時間に司会を立てて行うクラスがあったりします。この教科は必ず司会が行う・行わない、と決めているわけではありません。

── 他に御校ならではの授業内容というのはありますか。

平塚  先ほど「伝統文化や伝統工芸など地域に学んでいる」とお伝えしましたが、京都ならではというか、できるだけ本物に出会うということ大事にしています。

例えば、「京くみひも」の仕事場を訪問し、弟子入りという体でくみひもを制作しながら、道具に触れ、こだわりや想いを尋ね、匂いや雰囲気まで感じて帰ってこさせます。その経験をもとに、今度はクラスメイト同士で「この間あんな話をしてはったけど、僕はこういうことが大事にしてはると思う」などと互いに意見を交換します。次に、清水焼や京友禅などそれぞれ弟子入りの経験をしてきたクラスメイトと「僕の師匠はこんなことを言ってはったんやけど、自分のとこはどうやった?」「それは言うてなかったけど、こういうことは言うてたんちゃうかな」「ほんなら共通点はこういうことやな」などと、伝統工芸に関する自分の考えを言語化していくわけです。その後は思考ツールを使用して思考を見える化させることで、より深い学びにしています。

 

── 人と意見をぶつかり合わせるというプロセスは非常に重要だと思いますが、初等教育の段階では性格的な差異が大きいのではないでしょうか。

平塚 それは司会の子が生きるんですよ。話し合いはフリートークにせず、必ず司会を置く。教室にはものすごく活発に話す子もいれば、ひとりでポツンとしていたり、意見を言えない子もいたりします。そうならないように司会の子がさばいていって、みんなの意見を能率的に吸い上げ、まとめていくことが肝心なんです。

もちろん、もともと内向的な子どもが率先して意見を言えるようになるのは、時間がかかります。しかも普段の授業だけではなかなか難しい。ところが、総合学習を35時間ほど続けると、どこかでスイッチが入るんですよ。こんなことがありました。京都伝統産業館の方がいらして、「実は京都の伝統工芸館はいまピンチなんです。君たちにも何とかしてほしいから、何かアイデアないかな」と言ったんです。そのときに、「僕らにできることを考えよう」とスイッチが入った。クラスごとに「こんなことできるんちゃうかな」なんてアイデアがぼんぼん出てくるし、内向的だった子どもも周りの本気に動かされて、意見を言うようになった。先生も「今日は◯◯さんがこんな意見を言いました」と褒めるので、それで子どもに自信がついて、殻を破れたんです。

── 教師が一人ひとりの子どもの個性を把握していることも重要なんですね。

平塚 やはり子どもは、自信や成功体験がないと次のアウトプットはしにくいから、そこが教師の腕の見せどころ。子どもの変化をキャッチすることと、タイムリーにその子に働きかけることが、いわば「先生力」なんです。

本校では、先生同士が互いの授業を見学する研究授業で、教師の子どもに対する関わり方を真剣に見るようにしています。そこで「子どものああいう言葉を拾っていったらいいのか」「教師からのこういう声かけで授業がまた発展していくんだな」「こういう支援をすると子どもはすごく活動的になるんだな」というようなことを互いに学ぶのです。他には学年会を頻繁に行って、情報交換することも大切にしています。授業の進行に関する悩みや授業に集中できない子どもへの不安があれば、先輩教員がアドバイスすることで乗り切る。そういうさまざまなフォローアップで、教師力もつけていきたいと考えています。

 

番組小学校

明治維新後の1869(明治2)年、当時の京都の住民自治組織だった「番組」を単位として創設された64の小学校を指す。

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PISA型読解力

PISA(OECD生徒の学習到達度調査)による「読解力(Reading Literacy)」 のこと。「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」と定義される。41カ国・地域から約27万人が参加した、平成15年(2003年)のOECD(経済協力開発機構)によるPISA調査の結果、日本の子どもたちの学力は「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「問題解決能力」についてはいずれも一位の国とは差がなかったが、「読解力」についてはOECD平均程度まで低下していることが判明した。

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取材・文:堀 香織  撮影:小林敏伸

 

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