文科省初のコミュニティ・スクール指定校であり、公立小学校では珍しい小中一貫校でもある京都御所南小学校。
後篇では、学校が推進している「遊び」の本質、今後の教育課題、インターネットの良き側面について、平塚校長にお話を伺いました。


── 御校は「学校で遊ぶ」ことを大事にしておられます。子どもたちはどんな遊びをしているのですか。また、「遊び」の本質には何があるとお考えでしょうか。

平塚修一郎(以下、平塚) そうですね、ドッジボールとか、鬼ごっこ、一輪車、それから鉄棒。校庭で身体を使う子どもが多いですね。あとは図書館で読書をしている子、校内で遊んでいる子もいます。

 私は、遊びはさまざまな問題解決の場だと思っています。例えばクラスでドッジボールをしていて、よそのクラスの子が「混ぜて」と言ったときに、入れるか入れないか。「自分たちだけでやりたいけれど、入れないと先生に怒られるしな」「でもあの子、強いしな」と悩むわけです。または、線を踏んだ踏んでいないで揉めたときに、「とりあえず線を踏んだことにしといて、早いところゲームを再開しよう」という子もいれば、「踏んでないのに踏んだことにされたら悔しいよな」と考える子もいる。本当にいろんな場面で課題がたくさん出てきて、それをうまく解決していく経験を積むことで、課題解決力や折り合いをつける力、もっと言えば発想力までを育てられるのです。

── 遊ぶ時間をつくるために休み時間を長くしたということですが、いつからですか。

平塚 第2運動場をつくったころだから、2011(平成23)年だったと思います。休み時間を長くしても、授業は1コマ45分なので、1時間目と2時間目の間の5分休みをなくしました。ちなみに1時間目と2時間目の間のチャイムは鳴らしません。90分の途中でチャイムが鳴ると、子どもの集中を途切れさせる可能性が高いので。逆に子どもたちが1コマ45分を意識して授業を進めています。

── まさに、時代の変化とともに教育のかたちも変わらざるを得ない中、平塚校長にとっての目下の課題は何でしょうか。

平塚 課題は3つあります。

 1つ目は、アクティブラーニングについてです。2012年8月、文部科学省中央教育審議会が取りまとめた「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」において、アクティブラーニングという表現が初めて用いられました。アクティブラーニングとは、これからの社会を生き抜くために必要な「主体的・協同的に課題を発見し解決する力」を養うための授業スタイルです。2017年の学習指導要領改訂案ではその文言が消え、「主体的・対話的で深い学び」という表現に変わりましたが、本校ではそれ以前からずっと子どもたちによる主体的・対話的で深い学びを実践しようと努力してきました。しかしながら、まだまだ教師が授業を手放さない。子どもが自ら掴みとり学びとる授業をするためには、先生がコーディネーターに徹することを意識せねばならないので、それを徹底するように指導しています。

 2つ目は、ICT教育の推進です。本校はアウトプットを大事にしており、その手段としてタブレットを導入し、効率的・能率的に授業を組み立て、グローバルに世界とつながっていく子どもを育成したいと考えています。

 3つ目は多様性を認めること。グローバルな世の中になり、いろんな文化や習慣をもったさまざまな人種の人たちと、議論やコラボレーション、コミュニケーションを上手に行うことは今後の子どもには必須です。そのためには多様性をしっかりと認めていけるような教育が必要だと思っています。

── タブレットを使用して世界とつながることがこれからの教育に必要だというお話ですが、あらためて、教育とデジタルテクノロジーとの関係についてはどのように考えていらっしゃいますか。

平塚 現在ある職業の半分以上が今後はロボットインターネットやAIなどで完結してしまうだろう、今の子供たちが大人になる頃には、世の中の半分以上のことがインターネットの世界で行われると言われている世の中で、そこにどう対応できるのか、ツールをいかに使いこなせるようになるか、というのは大事なテーマだと思います。しかしながら、個人的にはそれらを使いこなせるだけではなく、制作する側になってほしいなと。ロールプレイゲームも、自分が与えられてやるだけでなはなく、その一部を制作できる人間に育ってほしい。クリエイティブな側面を鍛えるために、来年必修科目となるプログラミング学習がうまくつながっていけばいいなとは思います。もうひとつは、やはり世界とつながるということを子どもたちにはしっかりと体験してほしい。多様性こそが力であり、それが結局はクリエイティブな側面も育てるのではないでしょうか。

── パソコンやタブレットを通して世界とつながる授業や試みはありますか。

平塚 パソコンはいろんな場面で使っていますが、情報収集の段階からはまだ出ていません。タブレットは残念ながらまだ本校にはなくて。集めた資料をうまく組み合わせ、タブレット上に新聞として展開するとか、そんなことを子どもたちに経験させたいのですが、まだちょっと先の話になりそうです。

 ただ、フィリピンの小学校と交流を始めたんです。拙い英語で繋がる喜びや伝わる楽しさを味わうという英語教育の面もありますが、それ以上に、同学年だけど学んでいる教科やお昼の過ごし方、遊び方がこれだけ違うなど、他国の文化を肌で感じていくことも大事かなと。スカイプかLINE電話で始めようと考えていますが、費用のこともあってこれも未定です。

 一方、グローバルからは外れますが、LGBTという多様性も子どもたちには学ばせているところです。これまでは偏見に満ち溢れていたことが実はそうではなくなってきたという世界の変化を正しく知っていくこと、またその変化を受容することを、感受性豊かな時期に経験させられたらと思っています。

── では、日本全体の教育現場は今後どのように変わっていくとお考えですか。

平塚 ボーダレスになってきているというのが大きいですね。人間というのは本質的に「自分たち」と「彼ら」という関係を昔からつくってきました。古代であれば自分たちの村と隣の村、戦国時代なら自分たちの国と隣の国、昭和に入ったら自分たちの国とよその国というように、対立の歴史をずっと歩んできている。それが、インターネットによって関係がボーダレスになることで、このまま範囲が広がって「彼ら」が存在しなくなり、争いがなくなっていけばいいなと。世界中の人たちみんなが「自分たち」であると思えるような世界を描いていってくれたら、それが平和で、豊かで、本当に幸せな世界ではないかと思うんです。

 例えばインターネットでは人助けが盛んで、あるときは、生協が200個の仕入れでよかった商品を間違えて2,000個頼んでしまい「困っている」と投稿すると、「うちでこれだけ貰うよ」というのが拡散していく。またあるときは、サッカーの日本代表が渋滞に巻き込まれてなかなかたどり着けず、「道を開けてほしい」というメッセージが拡散され、無事に試合に間に合う。そういう互助作用が素早く成立するのが、インターネットのよき側面だと思います。そのために多様性を認めていったり、自分の想いをきちんと発信できたり、善悪を判断して相手が傷つかないように配慮ができたり、そんな子どもが育つように我々大人は考えていかないといけません。

── では、最後にお母さん方にメッセージをお願いします。

平塚 親子で読書をするのと同じように、親子でコンピュータに触れていただけたらと思います。子どもから教えてもらうのでもいいから、子どもと一緒に触る時間をつくって学んでほしい。「子どもが先生」がいちばん早いのではないでしょうか。他の誰かに尋ねるより子どもに聞きながら理解するほうが早いし、親から質問される子どもも嬉しいだろうし、相乗効果的にはいいかなという気がしますね。

 それに以前は「小学校に滞在する間は子どもに携帯電話を持たせないでください」と伝えていましたが、現在はそんなことは言っていられません。逆に携帯電話を持って、インターネットのリテラシーを含めて力をつけていかないといけない。マイナスな部分をどう子どもたちから切り離すか、失敗したときにどう反省し、次に活かすのか。実際、LINEのグループで揉めたり、日がな一日ケータイゲームに没頭していたりと、親が困って学校に相談するケースもありますので、実際にトラブルが起こったときに子どもと親と学校でともに学んでいくことが大きいのではないかと思います。








5年3組担任 長谷川孝子先生インタビュー

── 本日の算数の授業では例題の答えを一人ひとりが考え、発表したい子が手を上げて板書し、しかも合計6つの計算式が出ましたね。それをクラスメイトが拍手で称える。非常にアクティブな授業に感動しました。

長谷川孝子(以下、長谷川) ありがとうございます。今日は昨日の学習を活かして問題が解けるので、結構みんなわかっている状態でしたが、確かに数直線なり関係図なりを描き出し、自分なりの数式を見つけ、それが6つもあるのは感動しますよね。

── 授業中、一度も手を上げて発表しない子というのは、いないんですか。

長谷川 「絶対1日1回は手を挙げよう」というのをクラスで決めていて、みんなそれぞれ頑張っています。子どもたちはけっこう社会が好きなんです。それこそ正解というのがひとつではなくて、自由に自分の意見を言えるので、ほぼ全員手を挙げますね。私自身は、とにかく認め合うこと、そして否定をしないこと、「でもさ」という言葉を絶対に使わないこと、「◯◯さんとは違うのですが」という言い方で自分の意見が言えるようになることを、しっかりと子どもに伝えるようにしています。もちろん、まだ5年生なので、恥ずかしくて意見を言えないという子もいますが、そういう子でも「教科書のここの部分を読みましょう」というときに手を挙げたりしますね。

── 黒板で発表する前に、「隣の人と意見を交換しましょう」と司会が言い、2、3人の最小単位で自分の考えた数式を互いに教え合う。「答え合わせ」ではなく「意見の交換」というのがユニークだなと感じました。

長谷川 そのような小さい単位での交流をあえて入れているのは、全体で発表できない子に対しての手立てなんです。31人の前で言えなくても、4人の前だったら言えるとか、相手がひとりなら言えるということがあって、それはもう十分立派な発表になりますから。とにかく自分の考えを人に伝えられたら、それだけでOKです。

── 子どもたちに司会をさせる利点は何だとお考えですか。

長谷川 主体的な学びというところに大きく関わってくるかと。自分が中心となって授業を進めるという経験を積むことで「もっとこうしてみたらいいのではないか」という前向きな思考、主体性が生まれる。それが互いの個性として現れてきて、その子らしさをアピールできる力が身についていくんだな、と実際に子どもたちを見て感じます。

── 「(先生抜きで)僕らでやらして!」と言われることはありませんか。

長谷川 言われますね。私が「ちょっと今日、先生いいひんねん」と言っても、「いけるいける! 先生いなくてもいいよ!」みたいな(笑)。教科にもよりますが、算数、社会とかだとまったく問題ないです。特にうちのクラスは討論が大好き。意見が分かれるのが興奮するらしく、「僕は違うと思います」と言いたいらしくて。だから逆に相手の意見を受け入れることが、うちのクラスの課題です。反論が言えるだけではダメで、相手の意見を受け入れるのも大事だよと。最近、自分の意見を言えなかった子たちが言えるようになったのはひとつの大きな進歩なので、今後はそこからどう最終的にまとめていけるかが課題ですね。







取材・文:堀 香織  撮影:小林敏伸


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