── 広尾学園に赴任されて10年。医進・サイエンスコースの立ち上げをはじめ、どのような想いをもって取り組んでこられたのでしょうか。

木村健太(以下、木村) 受験テクニックを叩き込まれ、懸命に受験勉強をして入学しても、大学で「求めているのはそんな力ではない」と言われてしまうことがある。そこで私が最重視してきたのが、大学入試を含めた「中学・高校と大学との接続」です。本校では、大学での学びともつながる「生徒の主体性を軸とした研究的な学び」を進めてきました。例えば、医進・サイエンスコースでは、生徒一人ひとりが自ら設定した研究テーマに取り組んでいます。

 研究を進めるうえで何よりも大切なのは、ワクワクする気持ちです。だからこそ、カリキュラムの設計も研究のサポートもすべて、生徒が楽しいと思う気持ちを大切にしてきました。学ぶってそもそも楽しいことだと思うんです。小さい子どもは「なんで?」「どうして?」とよく訊くでしょう。「本質を知りたい」と思うのは本能的な欲求で、本来は自ら喜んで求めるものなのに、受験間近になるとみんな勉強嫌いになっている。学校という環境が学ぶことを嫌いにさせてしまっているとしたら、教育に携わっている身としてこんなに悲しいことはありません。

「学ぶって楽しい!」という感覚を生徒と共有するためには、私たち教員自身も学ぶことを心から楽しむこと。そして、楽しくてしかたないと思っている自分の専門について、生徒たちに伝え続けることです。本校では、どこまでが遊びでどこまでが勉強なのかわからないような感覚で、生徒と教員が楽しみながら学ぶ環境があります。

 学校は、生徒をいまの社会に適応させるための場所ではなく、生徒たちと未来をつくる場所です。私たちは生徒に「これからの未来をつくるのは、あなたたちなのだと本気で思っている」「私たちが知っていることはすべて教えるから、一緒に幸せな未来について考えていこう」と伝えています。生徒たちには、当事者意識をもって人類の未来を考えて欲しい。そのために必要な新しい価値を、研究的なマインドをベースに生み出して欲しいと考えています。

── 研究分野を深めるだけではなく、英語をはじめとしたその他の教科も熱心に勉強する生徒さんが多いですね。

木村 ええ。医進・サイエンスコースでは、「その答えを世界の誰も知らないこと」を、研究する際のテーマとして設定しています。世界の誰も知らないことにアプローチするためには、自分が興味のあることに対して人類がどこまで明らかにしているかを知る必要があるし、対象テーマの最新の情報を得るには、教科書や書籍だけでは足りないので、インターネットを駆使して調べなければなりません。ところがインターネット上には、不確実な情報もあふれている。「正しくて新しい情報を手に入れたい」という生徒たちの欲求が高まったタイミングで、「研究における最新情報は、専門家が査読した論文というかたちで雑誌に掲載されているんだよ」という話をすると、自ずと学術論文を読みたくなるんです。学術論文のほとんどは英語で書かかれているので、中学生や高校1年生という早い段階であっても、「最新の情報を手に入れるために英語を使いこなせるようになりたい」と思う。受験科目に英語があるからではなくて、自分がやりたいことをやるためという動機で、英語の勉強を頑張るようになるのです。

 他にも、自分が考えている仮説を証明する際に「確かにその通りだ」と世の中の人に納得してもらえるための実験系を組みますが、そのときに必要になるのは数学です。一方で他の人の考えを理解したり、自分の考えを表現したりしようとすれば、国語の力が欲しくなります。このように、自分が興味のある分野を探求していくことで、さまざまな分野に興味が拡張していくのです。

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