>>【前編】広尾学園 医進・サイエンスコース 木村健太統括長インタビューを読む

木村健太(以下、木村) 後藤さんが「p型半導体を含む正極触媒を用いた色素増感太陽電池の高電圧化」という研究テーマにたどり着く過程の最初のきっかけを聞かせてください。「自分が没頭できるものにどのように出会えるのか」を知りたい人は多いと思うので。

後藤愛弓(以下、後藤) 広尾学園では年度末に成果報告会という発表会のようなものがあり、中学時代に見学しました。そこで、ある先輩が色素増感太陽電池の研究発表をしていたんです。初めて見たカラフルな太陽電池に魅了されましたが、正直、話していることの99%はわかりませんでした(笑)。それでも、堂々と発表している姿が格好良くて、憧れを抱いて。高校に進んだら色素増感太陽電池の研究をしたいと思いました。

木村 色素増感太陽電池という名前に馴染みがないという人が大半のはずなので、一般的な太陽電池との違いについて、説明をお願いします。

後藤 そうですね……家庭や学校で使われている太陽電池はシリコンでできていますが、シリコンでつくられている理由は、発電効率が良いからなんです。でも、コストはすごく高い。一方、この色素増感太陽電池はコストが抑えられる。ただ発電効率が低いので、実用化はされていません。私たちの暮らしのなかで使われているシーンは、残念ながらまだないんです。

木村 研究をしていておもしろいと感じる瞬間はどんなときですか。

後藤 研究は仮説を立てることから始まりますが、仮説を立て、実験をして、結果を出す、という一連の作業はすごく大変です。だから、結果はどうであれ、やりきったという達成感があることが楽しいです。ネガティブな結果が出たときは、「なぜこういう結果になったのか」「次はどうやったら改善できるのか」を考えますが、それもまた楽しいですね。

木村 うまくいかなかったときも楽しめてるのがすごい(笑)。その思考のサイクルを、研究だけでなく普段の生活で使っていることもありますか。

後藤 はい。私はスポーツが大好きで、バトミントン部に所属しているのですが、研究を始めてその思考のサイクルが身についてからは、試合が終わるたびに「今日の試合の何がダメだったのか」を振り返るようになりました。さらに高校に入ってからは、「毎回の練習で、何を意識するのか」についてもよく考えるようになりました。

 あとは翻訳のボランティアもやっています。実際の講義動画を公開しているアメリカの大学があるのですが、本質的でとても興味深い内容なんですね。ただ、すべて英語なので、日本の高校生がそういった本物の授業に触れたいと思っても、英語力が壁になってしまう。日本語字幕がついていれば、誰もが言葉を超えて学ぶことができるし、自分も内容を学びながら英語も強化できるかなと思って取り組みました。

木村 後藤さんは、英語できるよね。

後藤 中学生のときは英語の成績が悪くて、大嫌いでした(笑)。英語を使う場面もなかったし、何のために勉強しているのかわからなかったから、頑張れなかった。でも、高校から医進・サイエンスコースに入って研究を進めるなかで、論文を読みたいなと思ったんです。そうして高校1年生から目的をもって英語を猛勉強するようになったら、模試でも定期テストでも1桁台の順位を取れるようになりました。

木村 翻訳ボランティアで日本語字幕をつけているのは、大学の講義動画ですよね。英語ができても、講義の内容を理解できなければ難しいのではないですか。

後藤 そうですね。私の研究は化学ですが、講義の内容はケミカルバイオロジーといって化学と生物の融合のような内容です。今まで触れたことのない分野で、どんどんわからなくなっていったんですが(笑)、翻訳は3〜4人のチームでしているので、生物が得意な子に聞きながら進めました。

木村 チームで取り組んだからこそ、大変だったことやおもしろかったことはありますか。

後藤 私が一緒に進めてきた翻訳チームは全員が部活も研究も行っていて、すごく忙しい人ばかりでしたが、だからこそサポートし合ってこられたと思います。「私は今日ここまでやっておいたから、次はよろしくね」とパスが飛んでも理解し合えたというか。一方で、研究はひとりで進めることにしました。もちろんチームでもいいですが、人数が増えれば増えるだけ予定を合わせるのが大変になるので、研究だけはひとりで取り組んでいます。

木村 研究に部活、翻訳活動に加えて普段の勉強と忙しそうですが、時間が足りなくて何か我慢したことはありますか。

後藤 友達と遊びに出かける時間はなくなったかもしれません。でも、自分にとっては研究や部活が娯楽のようなものだったので、特に辛かったとか楽しみが消えたということはなかったです。

木村 後藤さんの研究について、保護者の方が何か言うことはありますか。

後藤 特にありません。「やりたいならやってみれば」とだけは言われ、反対されることは何もなかったです。高校1年生のころは、「今日、学校で酢酸ナトリウムを買ってもらったんだ」とか嬉しくて話していましたが、お母さんはよくわかっていなかった(笑)。振り返れば、小さいときは家族でよく出かけました。海に連れて行ってもらうたびにお父さんに、「これは何?」と尋ねていた気がします。その好奇心が、いまにつながっているのかもしれません。

木村 今日は後藤さんに話を聞きましたが、医進・サイエンスコースの生徒は本当にみんなユニークですよね。それぞれが自分の好きなことを見つけて没頭している。後藤さんから見てどうですか。

後藤 研究に部活に一生懸命な、おもしろい友だちばかりです。あと、医進・サイエンスコースは生徒と先生との距離がすごく近い。授業中はもちろん、授業外で質問に行くのも、遠慮しなくていいので嬉しいです。いい意味で先生という感じがありません(笑)。同じ研究に興味がある仲間みたいな感覚でいられるので、それもすごく楽しいです。

 本質を捉えたカリキュラムを構築、生徒自らの「知りたい」という気持ちを動かし、授業や研究が楽しめる環境を提供している広尾学園医進・サイエンスコースの指導方針は、後藤さんをはじめとした各生徒のなかに確かに息づいていると取材を通して感じられました。

 後藤さんの場合は、「研究」に対する好奇心が動機となり、苦手だった英語にも果敢に取り組む姿勢が生まれました。子どもは誰でも同じように、熱中して取り組み成長につながる“軸”があるのでしょう。また、研究の場構築としてテクノロジーを取り入れている同校の取り組みが、さらに好奇心の幅を広げていることも実感できました。

 大人の判断で制約を設けるのでなく、さまざまな機会を提供することで熱中できるものを見つけ、見つけたら集中して取り組む後押しをしてあげること。それこそが、答えのない時代に自ら課題を見つけ、解決に向けて全力で取り組む子どもたちを育てていく重要な視点だと感じます。(LIBERTYGRAPH編集部)





取材・文:伊勢真穂  撮影:yOU(河崎夕子)