“女子教育界の草分け”と称される大妻コタカが開いた私塾を前身に、100年超えの歴史をもつ私立中高一貫校の大妻中学高等学校。2017年4月に着任した成島由美校長が最初に考えたのは、他の伝統校や女子校との差別化です。

大妻コタカの目指した「社会に貢献できる女性の育成」を、新しい時代の文脈のなかでどのように受け継ぎ、どのような教育方針として提示するのか。新スローガン「大妻ビション50」や、今年9月からスタートした「生徒ひとり一台のタブレット」に踏み切った理由についてお尋ねしました。


── 赴任して1年8カ月となりますが、成島校長が始めた教育改革の内容、また生徒や教師の反応や変化について教えてください。

成島由美(以下、成島) 大妻中学高等学校は100年以上の歴史と伝統があり、立地にも恵まれた私立中高一貫の女子校ですが、着任後にまず考えたのは他の伝統校や女子校との差別化でした。学祖・大妻コタカ先生が目指していたのは「女性の自立」です。先生ご自身も80代半ばまで教育に携わり、前校長も72歳で退任して、現在は副学長として活躍されている。つまり、大妻では学校教育の中枢にいる人間が自らの背中で女性の自立を指し示してきたのです。

 その「女性の自立」を、現代に即して考えたとき、「大妻ビジョン50」という新しいスローガンが生まれました。「50」には3つの意味が込められています。ひとつは、50年間社会で活躍し続けられる女性を育成すること。次に、2020年の「大妻コタカ没後50年」に向け、しっかりと種をまいておくこと。最後に、2050年に力を最大限に発揮できる女性を育成することです。

 朝礼では「2050問題」の話をよくしています。内閣府が算出したデータによれば、2050年の日本の人口は1億人を割る可能性もあり、GDP世界比率では中国が1位、アメリカが2位となり、現在3位の日本はインドやブラジルなどにも抜かれて6位まで落ち込むと予想されている。そのような時代に英語だけでよいのか、他に身につける必要のあるものはないだろうかと。いまの高校2、3年生は、2050年には50歳前後とまだまだ働きざかりなんですね。そのときに社会の隅っこで平凡な人生を歩むのか、逆に社会を牽引する中心人物となるのか、よく考えてほしいと伝える。すると生徒も「自分は社会に貢献し続けるチャンスがあるんだ」「英語は社会で活躍するために必要不可欠なものなんだ」「だから大妻では中国語講座が始まるんだ」といろんなことが腑に落ちる。未来予測を伝えることで彼らに長い人生を生き抜く気構えを与えられたら、といつも意識しています。

── 女性の自立でいうと、大妻コタカさんは「良き家庭人、良き職業人」となることを説いておられます。「家庭人」はいざしらず、100年前に「職業人」になることを推奨していたことに驚きました。

成島 大妻の前身は縫製・手芸の家塾でした。裁縫は、当時の女性が食べていける職業のひとつだったんです。しかも、コタカ先生が伝承したのは、ガラス瓶の中でピンセットや縫い針を使って手毬・人形などをつくりあげる「瓶細工」。もちろん、お家のちょっとした繕(つくろ)い物も大切ですが、家に飾っておきたいと思える美しい手工芸品をつくれる技術を“武器”として提供したわけです。

 そうやってコタカ先生の時代の教育方針をひもといていったとき、「お裁縫箱は、いまで言えばPCにあたるのではないか」と思い至りました。若いうちから日常的に使っていれば、なかには一流のゲームクリエイターやアナリストになる子もいるかもしれないと。

── それで今年の9月、生徒にタブレットをひとり一台もたせたのですね。

成島 ええ。「女性が長く食べていける技術」を教えるというコタカ先生の理念を受け継いで導き出したキーワードが、「手に職(=テクノロジー)」と「グローバル」だったということです。

 手に職というのは絶対に道具が必要で、お裁縫箱にあたるのがタブレットです。まだ4カ月ですが、タブレットを使用する授業も増えてきました。グローバルは「英語+1」ということで、中国語講座を始めました。近々もう一言語も始める予定です。また、グローバルを意識した帰国生入試もスタートさせ、突き抜けて英語ができる子を積極的に入学させようと考えています。

── 生徒や教師の皆さんの反応はいかがですか。

成島 生徒は短い時間でずいぶん変わったと思います。1年に1度、生徒会長を決める総会というのがあって、先日中学生の部を見に行ったのですが、去年より迫力がありました。立候補した生徒が「みんなタブレットを持っているんだから、もっと意見を言おう! 私はそれをすべて集計し、学校改革のために役立てます!」なんて思い切ったことを言う子もいて。やはり学校が変わるときに、「自分も学校を変える一員になりたい」「勢いのある人になりたい」と思ってくれたのではないでしょうか。

 そうやって子どもが変われば、教師も変わらざるを得なくなります。授業を変えていかなければならない悩みや課題に対しては、外部の民間企業からファシリテーターを呼び、研修も行っています。でも、もともと授業が上手な先生は、年齢とか関係なく、PCを使ってもやっぱり上手なんですよ。授業というのはどうしたらわかるように伝わるか、どうしたら生徒全員を集中させられるかという想像力やサービス精神が大事で、平面の黒板だろうと数次元が存在するPCだろうと、本質は同じなんです。

 私は「過去と人は変わらないから、自分と未来を変えるしかない」という話を生徒によくしています。自分自身が変わりさえすれば、周りが変わる。そして世界も変わる。たったひとりの変化が集団に影響する力というのは、実はとても大きいんです。そのことを、いま生徒や教師自身が実感しているのではないかと思いますね。

── プログラミングの授業になったら輝く生徒がいる、という話も聞きました。

成島 いるんですよ、すごく得意な子が。しかも高校3年生のクラスで、立って周りの生徒に指導する子まで現れた。教えあい・学びあいが起きたんですよね。なかには中学3年生でN高に転学する子もいます。あとは、理科部という部活の生徒たちが「ドローンの授業をやりたい」と先生を説得し、2019年1月7日にドローンの授業も行う予定です(2018年12月取材時)。

 コンピューターの分野は、生徒が先にどんどん進んでいいんです。「◯◯先生はまだ使ってくれません」「自分の学年では公民の授業しか使われません」などと言う子もいますが、授業で使うことよりも、まずは慣れてほしい。コンピューターそのものを自分の武器にしてほしい。そうやって生徒がこの分野を引っ張っていき、その間に教員も変わっていくだろうと期待しています。

実際のドローン授業の様子

── コンピューターを使う教育について、日本という大きな枠組みで俯瞰すると、どのようにお考えですか。

成島 2020年度からすべての小学校においてプログラミング教育が必修化されますが、テクノロジーを使って身につけさせたい力というのは、結局は論理的思考能力や創造性だと思うのです。そこで問題になるのは、教えられる先生が非常に少ないということ。社会が求め、国がカリキュラムを変えようとしている時代に、学校が鎖国状態で、先生たちはテクノロジーから遠い“チョークの世界”で生きている。そのギャップを国がどのように埋めようとしているか、いまひとつ見えてきません。

 私が考える打開策は、教員免許の基準や教師の査定を見直すことに加え、60歳、65歳で民間企業を定年したコンピューターに詳しい方にコーディネーターとして学校に入ってもらうことです。教員は教科のプロフェッショナルですが、現状としてテクノロジーには弱いわけだから、そこだけ詳しい人に来てもらう。民間と学校がもっとまざりあって、未来に羽ばたく子どもたちの環境をもっと整備していったらいいのではないかと思うのです。

 もうひとつ問題だなと思うのは、いまの教員の世界が減点主義であること。新しいことに挑戦した人の方が負けなんです。新しいことには失敗がつきものだから、減点を怖がってチャレンジしない。でも、失敗には必ず学びがあります。

 例えば補助金をもらって新たな試みをしているフューチャースクールは、成功も失敗もチャレンジの数だけ蓄積されている。しかし、それは意欲のある一部の学校で偶発的に起きていることであって、日本という大きな面ではまだ「変わってきた」とまでは言えない。オセロの角を抑えて一気にひっくり返すくらいのパワーをもつには、公務員の普通の先生が変わらないといけないんです。そのために、減点主義を加点主義に変える。新しいことに挑戦するのは尊いことなんだという風土をつくっていくことが必要ではないでしょうか。


2050年問題
人口減少、少子高齢化、労働力の減少、社会保障費の増大、インフラの老朽化など、2050年の日本と世界で予想される諸問題。

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N高
N高等学校の略称で、沖縄県に所在するネットを通じた通信制の私立高等学校。授業やレポート提出をネット上で行い、プログラミングやゲームなどの課外授業や全国各地での職業体験を通して社会で役立つスキルをプロの指導のもと身につけられる。

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フューチャースクール
総務省が2010年度より推進する、ICTツールを利活用した先進的な学習を行う学校教育のこと。

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取材・文:堀 香織  撮影:山本マオ


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