── 多様性が叫ばれる時代、女子校や男子校が置かれている状況は厳しいと言われています。そこであえて成島校長が考える「女子校ならではの魅力」とはどういう点でしょうか。

成島由美(以下、成島) 大妻ではないのですが、私自身も女子校の出身なんです。実体験から言わせていただくと、女子だけで磨かれたり揉まれたりする数年間というのは、社会に出たときに非常に役立ちます。「女に厳しいのは女」と言うほどで(笑)、女性とうまく渡り合えたら、たいがいはうまくいく。大妻には約2,000人の生徒がいますから、いろんな性格や嗜好、考え方の“標本”が2,000通りあるのだと考えたらいい。「こういう人にはこう切り返せばいい」「こういう風に言ってあげると気持ちよく動いてくれる」というように、女性同士の良好な関係性を磨くチャンスがあることが、ひとつ魅力と言えるでしょう。

 また、中学生から高校生は思春期真っ只中ですから、見られると恥ずかしいと思うことがたくさんあります。共学校であれば「生徒会長に立候補なんてしたら、ガツガツしている女に思われるんじゃないか」と異性の目を気にしてしまう。でも大妻には女子しかいない。それで私は生徒に「ここにあなたの結婚相手はいない。ここは友達か、ライバルか、切磋琢磨の同志しかいない。一生お風呂に入る仲間しかいない」と言うんです(笑)。そうすると、自分をさらけ出せる。さらけ出すと、「自分が何者であるか」がわかるようになる。

 例えば、自分は何が得意で何が不得意なのか、人を前から引っ張っていく素養があるのか側面や後方からサポートするのが向いているのかわかる。好きなことは「挑戦したい」と言えるようになるし、失敗ゆえの気付きもある。やはり学校というのは、挑戦できる場所であり、失敗もできる場所としてありたい。失敗をどのように克服するのか、自分の限界はどこかを一人ひとりがそれぞれに学んで欲しい。社会に出ると、お金をいただく側だから、失敗したら降格されたり干されたり、好きな仕事から外されたりします。だから「学校のようにお金を払って学ぶ時期に、できるだけ失敗しなさい。失敗して這い上がる経験が多いほど、この先有利ですよ」と生徒には伝えています。

── 大妻ではキャリア教育も熱心ですね。

成島 未来について考えさせたり、職業教育を話したりするキャリア教育の授業は、週に1回、中学3年生から行っています。また、これからは年に数回さまざまな職業のプロフェッショナルを招いて、講演もしてもらっています。それは中学1年生から参加可能で、親が同席してもいいんです。

 先日は、文系は映画プロデューサーの川村元気さん、理系は宇宙飛行士の金井宣茂さんの講演を行いました。一流の人の話に刺激を受けるのでしょう、親御さんから「子どもの言うことが変わってきた」という声もいただいています。子どもはすごく感度がいいので、刺さる言葉を放つ人に会わせれば、自動的にスイッチが入って動き出す。さまざまな方が気軽に来られる場所に学校があるのは恵まれていると言わざるを得ません。

── やはり地の利は大きいですね。

成島 これから大事だと思います。なぜなら学校はこれから社会に開いていかないといけないから。2020年度に実施される大学入学共通テストで、英語は「聞く(Listening)」「読む(reading)」「話す(speaking)」「書く(writing)」という4技能評価が導入されます。それはつまり、グローバル社会の中で自分の考えを述べることができ、背景知識をもとに自ら問いを立てて課題解決できる能力のある人間を、日本の社会が必要としているからです。

 企業、そして社会はいま新人を数カ月研修したり、専門の研修所をつくったりする余裕がないので、ある程度大学で仕上がっている人材を求めます。大学で仕上げるためには、それなりの力を中学・高校でつけておかねばならない。社会から求められているものを私たち教員が見据えて、「『学ぶ』と『働く』がつながる場所にいまいるんだ」ということを生徒たちに刷り込んであげなくてはいけない。だからこそ、学校はこれからもっと間口を広げて、社会で活躍している人の経験を話してもらう機会をもっとつくるべきなんです。「学校は教員と生徒の聖地」などと言っていてはダメ(笑)。大妻ではそのような蓋をこじ開けて、社会の風を入れたいなと思っています。

── お話を聞いていると、風通しがいい学校だなとすごく感じます。

成島 やはり一流の人の話は本当にすごいですね。先ほど川村元気さんの講演があったと申しましたが、高3の生徒が質問したんです。「私は映画が好きで、将来は映画業界で働きたいと思っているのですが、NetflixやAmazonプライムなどさまざまな映像サービスがただ同然で見られる時代、映画業界はこれから斜陽ではないでしょうか?」と。

 すると川村さんが「映像と映画は違う」と答えた。「あなたが言っているのは映像だ。ポップコーンの匂いとチキンの匂い、前に座っている人の髪の毛も含めて、映画なんだ」と。加えて「本当に映画で食べていきたければ、制服以外は私服1着にして、お小遣いを映画館につぎ込み、ありとあらゆる映画を見て、貧乏になりなさい。それくらい飢えたときに、お金を払う価値のある映画なのか、そうでないのかわかるようになる」というアドバイスをされたんです。無料で観たりTUTAYAでDVDを借りたりしていたら、本当の映画製作はできないんだと。

 そして、親に対しては「子どもにアルバイトをさせてはいけない」とおっしゃった。大学の間しか何かを充電できる時間はない。その間に映画を観るとか、アフリカを知るとか、いろんな経験をさせてあげてほしいと。講演後の親御さんのアンケートには「アルバイトで大学の学費を稼がせようと思っていた自分は間違いでした。死ぬほど働いて、子どもにはバイトさせません」と書いてありました。校長の私がそのように言ったら批判されるでしょうが、その道のプロフェッショナルが生徒の問いに答えるかたちでさらりと言うと、親御さんも納得してくれるんです。

── キャリア教育的には、大妻女子大学への内部進学より、もっと外の大学を目指すことを生徒に推進していくお考えだとか。

成島 ええ、大妻中学高等学校は進学校として、他校への受験をどんどん挑戦させたいと考えています。生徒全員がセンター試験を受験し、長く社会にコミットできる人材になるための学部や職業につながる学科を目指してもらいたい。実際に理系は、医科、歯科、看護、獣医、薬学を足すと80人の高等専門職が出ており、大妻女子大学にはない専門分野にも積極的に取り組んで欲しい。挑戦者を幅広く世の中に輩出する中学・高校になっていけば、自然とブランドも上がっていくのではないかと考えています。

 女子校はこれから厳しいという話がありましたが、私たちは「女子校“なのに”」にしたいんです。「なのにビジネス」が強いと私は思う。例えば、Netflixは世界一の映画事業なのに映画館がひとつもない。Uberも配車サービス会社なのに、車は1台ももっていない。同じように、女子校なのに、強烈にバンカラなことをさせるとか、他の女子校が仕掛けないこと、未来に活きそうなことを探してやらせたいなと思うんです。……まあ、たくましい人を育てるための養成学校みたいになっていくのではないでしょうか(笑)。大切にお守りしながら大学まで上げていくという昔の付属女子校のイメージとは、ずいぶん違うと思いますね。

── 入学したいと思う子どものタイプも変わってくるでしょうね。

成島 今年の中学1年生はとてもたくましいです。授業を見に行っても「先生わかりません」とはっきりと手を挙げる子が多いし、生徒指導で時間をとられることがまずない。

 受験する子どもの親御さんのアンケートでは、大妻のイメージが変わってしまったことを嘆く声も正直読み取れます。「大妻女子大学の附属校ではないのですね」「すごく強い生徒を求めていらっしゃるので、うちの子ではないと感じました」という意見もありました。でも、それはいいと。どんな生徒を募集しているのかはっきりと伝えないと、入学後にお互い不幸になる。6年も一緒に過ごすってちょっとした結婚生活みたいなものだから(笑)、本当に好きになってくれる子だけが入ってくれたらいいかなと思っています。

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