2010年に女性として全国初の小学校民間人校長に就任した尾塚理恵子さん。東京ディズニーリゾート内の子ども向け施設「キャンプ・ネポス」で館長として働いた経験などを生かしながら、5年間の任期中はいじめ問題の解決に取り組み、保護者や教師と真摯に向き合ってきました。

ときに、保護者と教育委員会との間で苦しい状況に立たされることもあったようですがどのようにして乗り越えられたのでしょうか。リーダーとして常に前に進み続けていく秘訣をお尋ねしました。

女性初の小学校民間人校長に抜擢された理由

── まず、大阪府公立小学校任期付校長に応募された経緯をお聞かせください。

尾塚理恵子(以下、尾塚) 2009年の夏ごろ、橋下徹大阪府知事(当時)が小学校の校長を民間人から公募する、というニュースをたまたまテレビで見たんです。「コミュニケーション研究家」として子育てなどに関する書籍の執筆や講演などを行っていた私は、現場で直接子どもや保護者と関わっていきたいと考えていたこともあり、早速応募しました。校長にはなれなくても、応募をきっかけに関西の教育委員会の人たちに自分のような人間がいることをアピールし、活動の幅を広げられたらいいな、と思って。

── 78名の応募者の中から、尾塚さんが女性としては全国初の小学校民間人校長として選ばれたのはなぜだったのでしょうか。

尾塚 のちに大阪教育委員会の委員長に聞いた話によると、最終面接に進んだ5人のなかで私が唯一、保護者に目を向けていたことが理由だったそうです。「校長になったら行いたいことは?」という問いに、他の方が「学力向上」「英語教育に力を入れる」などと答えていたところ、私は「保護者対応を積極的に行います」と言った。それが決め手だったとか。委員長はそのころ「保護者のことも考えないと小学校の運営はできない」と考えていたんですね。2008年前後に「モンスターペアレント」という言葉が流行ったりして、保護者対応が重要視され始めていたことも大きかったのでしょう。

── 尾塚さんが保護者対応を重要視したのは、なぜだったのでしょうか。

尾塚 校長になる以前、ディズニーリゾートの子ども向け施設「キャンプ・ネポス」で館長をしていたのですが、そのときに受けたクレームがきっかけです。保護者の方から「東京ディズニーリゾートでありながら、こんなに心のない対応はなんなのか」とご指摘を受けてしまった。しかし、当事者のキャストはその方がなぜそこまで怒ってしまったのかがわからずにいました。それで私が上司としてお電話でお詫びをしたのですが、お怒りが鎮まらず、会いに行くことにしたんです。

 しばらくお話をするうちに、その方はお子さんを進学校に通わせていて、教員とのコミュニケーションの取り方に悩んでいると打ち明け始めました。関わり方がわからないのだと。そして、「学校へのストレスをつい私たちにぶつけてしまったんじゃないか」とおっしゃったんですよね。

 その言葉を聞いて、子どもだけではなく保護者も学校に対していろいろな悩みがあり、救いを求めていると感じたんです。保護者の気持ちをラクにしてあげるのも、学校の管理職の役割のひとつだと思いました。

女性だからこそ生まれた小学校改革

── 実際に赴任されてからは、親御さんとどのように関わっていかれたのですか?

尾塚 たとえば、「校長と語ろう会」というサロンを月一回開催し、お茶を飲みながら保護者たちと語らいました。一人ひとりの発言時間を増やし、きちんと顔を見ながら話せるように、定員は15名と決めて。そのうち「一対一で話したい」というお声をいただくようになり、いざマンツーマンでお話を聞いてみると、子育てからご主人に対する不満まで内容は多岐にわたっている。ママ友との関係がこじれたお母さんが来られ、仲をとりもったこともありました。

 あとは、校長室のドアを開けっぱなしにして、誰でも入りやすい環境にしていました。寒い冬でも校長室のドアが開いているときは「どうぞお入りください」、閉まっているときは「来客中です」もしくは「外出中です」というサインにしていた。ときには教員や、子どもたちも校長室にやってくることもありました。

── 教員から相談を受けることも多かったそうですね。

尾塚 先生たちも、いろいろなものを溜め込んでいたようですね。赴任してすぐに、ふたりの若手の先生から職場環境に関する相談を受けました。あまり具体的な内容はお話できませんが、やはりコミュニケーションの取り方に悩んでいたようです。次第に「尾塚校長は話を聞いてくれる」という話が広まり、プライペートの悩みまで聞くようになりました。

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