私立校の中高一貫校、立教池袋中学校・高等学校には「数理研究部」という部活動があります。設立は1971(昭和46)年と古く、毎年約50名の部員がパソコン、プログラミング、数学、ゲームづくり、ウェブ関連や社会科学など、数理学をもとにさまざまな分野を研究。最近では外部のイベントでも次々と成果をあげ、全国数学選手権(現・数学甲子園)で準優勝、中・高・大学生を対象としたコンテスト形式の株式投資学習プログラム「日経STOCKリーグ」では12年連続で全国入選、2018年の「国際学生対向バーチャルリアリティコンテスト」のユース部門では金賞と協賛企業賞のダブル受賞を果たしています。前篇では、数理研究部顧問の内田芳宏先生に、部員の活躍ぶり、48年に及ぶ部の歴史、そしていまの子どもたちの特徴やそれに合わせた指導法についてお尋ねしました。


── 数理研究部(以下、数理研)には現在何名の部員が在籍し、どのようなテーマで活動をされているのでしょうか。

内田芳宏(以下、内田) いまは中・高合わせて58名で、それぞれ週5ペースで放課後に何らかの活動をしています。

 研究分野は数学、経済学、情報学の3つに分けられます。まず数学では、中学1・2年生は先取り学習をし、中学3年生からは高学年の先輩が後輩に教えるという形で、数学検定各級の取得を目指しています。数学甲子園にも何度か出場しました。経済学では、中学1年生から毎年「日経STOCKリーグ」に出場。チームごとに株式の投資テーマを決め、1年を通して調査をし、レポートを提出します。情報学では、中学3年生からプログラム言語を学び、コンピュータを使ってゲームプログラミング、3Dモデリングなどを行うほか、ロボットや自作PCなどの制作もしています。VRも盛んで、日本科学未来館で行われた「国際学生対向バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」や、ヨーロッパ最大のバーチャルリアリティコンテスト「Laval Virtual」でも結果を残しました。

── 2018年は日本HP主催の「Project Mars─Education League JP」でも優秀賞を受賞し、国際コンペティション日本代表作品に選出されていますね。

内田 ええ。参加した高校2年生(当時)の5人は、高1のときにIVRCは出場できましたが、Laval Virtualは審査に通らず、燃え尽きていたんです。それで「そんなに暇ならProject Marsをやってみなさい」と勧めたところ、重い腰をあげた。一次選考、二次選考と進み、決勝の8チームに残ったところで、モチベーションが一気にあがりましたね。CGが好きな子やプログラミングが好きな子、リサーチして情報提供をするのが得意な子など、興味・関心がそれぞれ違う5人だったことも、チーム力を高めた一因かもしれません。

── 数理研のそもそもの成り立ちを教えてください。

内田 1971(昭和46)年、数学教師だった佐藤勝造先生が授業とは関係のない数学史を教えたところ、面白がる生徒たちがいて、いわば私塾のような形で始まりました。1980年代にはいち早くマイクロコンピューターを導入し、数学だけでなく、情報理論などの分野にも手を広げています。

 私が副顧問になったのは1990(平成2)年です。そのころ部に置いてあった古いパソコンを使って何かやりたいけれど、指導できる教師がいないということで、学生時代にアルバイトでプログラミングをかじっていた私に声がかかったんです。当時はメモリーの容量も限られていたので、月並みですが内蔵されているゲームから始めて、最終的にはテキストベースでプログラムも書き始めました。

── それは生徒が自発的に?

内田 そうです。子どもというのはいったん興味を示すと、子どもだけでどんどん研究を進めていきます。子どもの興味・関心と、大人のそれとはズレていて、そのズレを教員サイドに寄せようとすると、絶対に無理が生じます。ましてや授業ではなくて部活ですから、興味がなければ部活に出てきません。つまり、教師のすべきことは、子どもの眼の前にたくさんの種(たね)を蒔くこと。その中で見向きもされない種もあるし、1回食いついて終わるものもあるし、食いついたら離れないものもある。要するに、一人ひとりがどの種に飛びつき、自力で花を咲かせるかということなんです。それが設立当時から続く数理研のやり方ですね。

── 内田先生は具体的にどのようなことに注意して指導されているのですか。

内田 大事なのは、焦らせないこと。ただし、一人ひとりが自ら決めた課題と努力目標に関しては、厳しく言います。「自分で決めたんだろう?」「どこまでやったの?」と。そこで「やってない」「諦めた」と言えば叱るし、「◯◯の理由で行き詰まっている」「△△へと方向転換したい」という言葉が出てきたら許諾する。自分自身で軌道修正できるというのは、ずっと続けられる子たちの特徴ですから。親御さんの中には「うちの子は幽霊部員で」と申し訳なく言う方がいますが、子どもには「やりたい」「見つけたい」という想いがある。それをいまのところうまく表現できないだけなので、「焦らなくていいんです。きっとあなたのお子さんも見つけますから」と伝えるようにしています。

── 数理研のモットーは「好きなことを好きなときに好きなだけ探求する」(この言葉も生徒が考えたモットー)ですね。最近の部員が外部イベントで好成績をあげるようになったのは、こういう学びの姿勢が関係していますか。

内田 関係すると思いますが、最近の子どもは目の前に種があっても拾おうとしない子が結構いるんです。以前は種が見えなくても、砂場をほじくり返して探していた。それが、ちょっと自分で探すのが苦手になってきているかなと……。探し方がわからないがゆえに、自分に合う種がわからない。だからなんとなく言われたままになってしまう、ということを感じなくはないです。

 逆に、言われたことをこなすのはすごく上手です。「◯◯というテーマについて調べてまとめてごらん」と言ったら、ものすごい内容を調べてくる。でも、「テーマを自分で探してごらん」と言うと、パタッと止まる。その状態を打破させるためのきっかけを、いかに教師がつくれるか。

 例えば、本校には天文部、生物部、科学部、数理研究部と、理科関係の部活動が4つもあるんです。通常の学校にも理科関係の部、パソコン部くらいはあると思いますが、数理研究部という名でコンピュータを扱っている部なんて、私が知る限りはないです。そういう場を用意するのも教師の役目です。

── つまり、御校の数理研に入部すれば、社会に出る前にたっぷりとテクノロジーに触れることができるわけですね。

内田 そのとおりです。逆に数理研を出た生徒が大学に行くと、「大学1年生なのになんでそんなことまで知っているんだ?」と驚かれます。一般の大学生はプログラミングどころか、データ共有の方法すら知らない。一方、数理研では中学1年生からCloud上でデータを共有します。SNSでDiscordも使います。中2には、OneNoteとクラウドの利用を義務付けています。あとはGoogleスライドを使って何かをすることもよくあります。

── 部員は、中学生でも個人でパソコンをもっているのですか。

内田 ええ。ただし、朝、教室には持っていかずに部室に置いておいて、放課後になったら取りに行くというルールを設けています。先日、中学2年生に「今回は何をするの?」と尋ねたら、「日経STOCKリーグで株式のポートフォリオを分析するのに、株価情報をネットで収集するために毎回コードを仕込むと大変なので、1日の始値と終値の変化のデータをダウンロードして、そこからコードを入れると、必要な情報だけがピックアップできてエクセルデータになるようにします」と言ってね(笑)。それで実際にVBA(MicrosoftがMS Officeの拡張機能として提供しているプログラミング言語)でつくったんですよ。

 いまはもう、オタクの時代じゃないですか。本校は理系オタクにめちゃくちゃ優しい学校なんです(笑)。今年、東京工業大学が初のAO入試を行いましたが、本校からは2人受かりました。オタク入試ですよ。京都工芸繊維大学のAO入試でも1人合格しています。工学系でいえば、慶應も早稲田も、“オタク”というだけで入れる。私は「オタク」っていい言葉だと思うんです。どんなオタクになるかはそれぞれ別ですが、好きなことを極められるというだけでも幸せなことですから。

── 最後に、お母様へのメッセージをいただけますか。

内田 学校でも家庭でも、型にはまった子は「いい子」で、型にはまらなかった子は「落ち着きがない」「やんちゃだ」「言うことを聞かない」という判断になることが多いです。でも、その型をちょっと大きなサイズにして見てあげれば、誰でも十分収まる。放任でもなく、無責任に受容するわけでもなく、子どもの型を一人ひとり見てあげること。サイズだけではなく、形も、三角形、四角形、丸……といろんな柔軟性をもたせると、子どもは十分健やかに育っていくだろうなと思います。

 もちろん、安全性を担保することは大事です。わざと過失になるようなことや迷惑をかけることをしないよう、注意をはらって目を光らせておかなければいけない。でも、そうではない範囲であれば自由にさせてあげること。

 あとは、待つことですね。子の成長を他と比べて、「早い」「遅い」と一喜一憂しない。学校内でも、待てない世界と待てる世界が共存していいのではないかと思うんです。例えば、授業は待てないけれど、部活で十分に待ってあげるとか。学校の中にいてくれる限りは、どんな状況になっても学校の管理下なので、犯罪には引っかからない。家庭でもそれと同じように、待てる世界を親がつくって、安全性も担保すると、子どもは伸び伸びと成長していくのではないでしょうか。





取材・文:堀 香織  撮影:小林敏伸


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