立教池袋中学校・高等学校の「数理研究部」は、部員だった生徒にどのような影響を与えるのか──。後篇では、「数理研究部が私のキャリアに与えた理由」というテーマで、数理研究部顧問・内田芳宏先生とOBである並木俊之さんが対談しました。また、コラムとして、現役部員の高校2年生ふたりにも数理研究部での学びや自らの研究テーマについて語っていただきます。


内田芳宏(以下、内田) 並木は、中学校時代は野球部だったよね。なんで高校から数理研究部(以下、数理研)に入ったの?

並木俊之(以下、並木) 内田先生の前ではなかなか言いにくいですが、私は数学やテクノロジーにそもそもあまり興味がなかったんです(笑)。ただ、中学時代に仲が良かった友達がたまたま数理研にいて、合宿で一緒にソフトボールができると言われ、すごく惹かれまして。正直、野球部はベンチにも入れなかったので、高校に入ったらちょっと違うことをやりたいと思っていたので、入部しました。

内田 当時はFlashが全盛期だよね。音も動画も同時に使えるという、ハードルが一気に下がったのが、Flashだったんじゃないかな。

並木 そうです。でも、やっていくと、部員みんな関心を寄せる分野が違う。グラフィックに惹かれてアニメーションをつくるやつもいれば、サウンドに興味をもって音楽をつくるやつもいた。Flashを起点に自分の興味がある分野をそれぞれが探求し、文化祭の展示に向けて頑張るという感じでした。内田先生はそれを後押しする立場というか、「あれしろ、これしろ」と細かく言わず、いつでも待ってくださったことを覚えています。

内田 そのころはまだ外部イベントに参加・出場することはなくて、文化祭が唯一の発表の場だったから、みんな気合が入っていたよね。

並木 そうですね。僕も1、2年生のときはFlashをいじる段階だったので、ちょっとしたアニメーションをつくって展示した記憶があります。3年生のときははっきりと覚えていて、自分の展示が間に合わなかったんです。高校生活でいちばんの挫折というか、涙をこぼすくらい悔しくて。そもそも自分は何をやりたかったのか、大学に行ったら何をしたいのかと、自らと向き合わざるを得ない経験になりました。

内田 間に合わなかったのは、並木自身が周りに頼れなかったり、わからないことを自分で抱えちゃったりしたことだったよね。その挫折の経験で、具体的にはどう変わった?

並木 自分がこれから何をやればいいのかわからないのであれば、大学では片っ端から面白そうな授業をとろうと決めました。学部も、心理学や経営学、経済学などありとあらゆる学問に触れられる社会学部産業関係学科、いまでいう経営学部に入学して。とにかくいろんなところに首を突っ込んで、自分の興味があること、好きなことは何かを突き詰めようと思ったんですよね。

 振り返れば、私の代はみんな興味の分野がバラバラで、ゲームが好きなやつ、アニメが好きなやつ、それこそプログラミングが好きなやつとはっきりしていて、ただ好きなことを突き詰めていた。文化祭の展示でも、10人いれば10人違う作品を出していた。でも、いまの現役生は外部イベントにチームで参加したり、入賞したりしている。私の代のころといまの学生たち、内田先生から見て変わったなというのはありますか?

内田 いや、資質は一緒だね。外部のイベントがなければ、いまでも文化祭に自分の関わってきた作品を発表していると思うよ。ただ、制作の規模が大きくなると1人ではできないので、協力者を仰ぐようになってきたかな。映像はつくれるけど音はつくれない子が、音楽をつくるのがうまい子に依頼をするとか、ゲームのデザインは考えられるけれどキャラクターを考えられない子が、他の子にコンテをお願いするとか。プログラムだけ書いてCGは他の子のものを使わせてもらうという子もいる。それが2人、もしくは3人の展示作品になっていくわけです。

 つまり、全方位的にできなくても、自分のいちばん得意な分野で力を発揮できることが増えてきている。特にものづくりが入ってくると、ノコギリやカンナなどの道具を使うのがうまい子もいるわけでね。すべてがデジタルという世界ではない中で、自分のできることは何かなと考えられる。そういう得意分野の違う複数の仲間でやる醍醐味というか世界が、並木の代よりは広がってきたかもしれない。ただ、資質的にはそんなに大きくは変わっていないよ。

並木 先生はそうおっしゃるかもしれませんが、私は日本HP主催の「Project Mars─Education League JP」で再び数理研に接点ができて、現役生の能力の高さに驚いたんです。例えばテクノロジーという切り口から提案をしてくるとか、天文部かと思うようなレベルで火星について調べてくるとか。プレゼンテーションの内容も「避難訓練」というユニークな切り口だったし、実際のVR化のレベルも高かった。

内田 「Project Mars」は、すごく良質の種をいただきました。それ単体で完結せずに、次につながっていったところが特にね。

並木 私も彼らが「国際学生対向バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」で金賞と協賛企業賞を受賞するまで成長したことに、すごく驚きました。たぶんその裏にあるのは、生徒一人ひとりの興味や関心、それを育ませる環境が数理研にあったということでしょうね。もちろん、私の時代も好きなことを好きなように突き詰められる環境はありましたが、やはりテクノロジーの進化によって生徒の資質も変わり、できることもすごく増えているという印象があります。

 実は本当に彼らに感化されて、私もAIの勉強を始めたり、ディープラーニングの資格試験であるE検定(JDLA Deep Learning for ENGINEER)の受験準備を始めたり、苦手なプログラミングも再挑戦したりしたんです(笑)。当時できなかったからこそ、もう1回トライしたいなと。まあ、趣味の範囲ですが。

内田 それは嬉しいね。人ってまっすぐ歩いているように思っても、実は曲がりくねっていたり、同じところを3周くらいしたりしているかもしれない。それでも、前を向いて進めるのは、生きる力だと思う。挫折もあるし、うまくいくときもあるし、失敗するときもあるし、やりきれないときもあるし、悔しい思いをするときもあるけれど、それでも前を向いて進めたら成長なんです。だから、並木が立派に成長してくれていることが、何よりも嬉しい。

並木 あらためて、数理研が与えてくれたものは大きかったなと自分でも思います。それが今の自分の“興味を幅広くもち、「面白い!」と感じたら飛びつける積極性”に繋がったんだろうなと……。人生の大きな転機となった3年間でした。

内田 並木も、広義で言えばオタクだからね(笑)。それでいいと思う。いまの世の中、オタク的な資質というか、探究心や持続力がないとやっていけないんじゃないかな。

並木 オタクの人と話すのって楽しいんですよね。違うバックグラウンドがある人と話すと、世界の広さ、奥深さに気づける。私もたまに数理研の同期と飲んだりしますが、相変わらずお互いオタクですし、ものすごく話が盛り上がります。オタクに優しい学校でよかったです(笑)。





①吉田翼さん(高校2年生)

 もともとゲームが好きで、中1から入部しました。最初は数学ばかりやっていたのですが、ゲームをつくりはじめてから俄然面白くなりました。いまはプログラミングを学んだり、最近では電子工作にも取り組み始めたりしています。具体的な目標は決まっていませんが、デバイスやソフトウェアをつくって高度な処理を学び、より効率性の高い最適化されているコードを勉強し、何かの大会に出せればいいなと思っています。

 高校生になってからは、IVRCに2回出場しています。昨年(2017年)は、犬追物(いぬおうもの・鎌倉時代から始まったとされる日本の弓術の作法の一つ。騎馬で犬を追い、弓で射る騎射訓練の武術)という昔の儀式的な文化をオマージュした「RUN! RUN! RUN!」という作品で、犬になりきって騎手から逃げるというコンテンツのVRを展示しました。矢が当たる感覚を再現するところがプロジェクトの基盤で、矢が当たった瞬間にどういう処理を挟むのか、どういう形で背中の衝撃を伝えるのかなど、最初は無線技術に関する知識がまったくなかったので苦労しました。(編集部注:銀賞と未来観客賞をダブル受賞)

 今年(2018年)は、高1〜高3が組んで「ARCO−Avoid the Risks of CO−」という作品を出しました。配線や電子工作の分野で、知識的にも技術的にもプログラムに向かう考え方においても少しは成長できたかなと思っています。(編集部注:金賞と協賛企業賞をダブル受賞)

 そもそもVR機器は高価ですし、それに触れるということ自体が貴重な経験でもあります。それに加えて、顧問の内田先生がいろいろなお話をもってきてくれるし、先輩からも新しい分野の紹介があって、知見を広げられたのはよかった。数理研は、授業とは違って、「こんなことをやってみるか」というチャレンジができる場所なので楽しいですね。それでいいコードが書けたりすると、気持ちよくなるというか、達成感があります。将来は、ソフトウェアエンジニアかITエンジニアになりたいです。

②三澤尚輝さん(高校2年生)

 小学生のころに文化祭を見学に来て、パソコンでいろいろやっている部活に惹かれて、中1で入部しました。ちょうどVRを先輩が始めたときで、自分でも興味をもって調べているところです。あとは、スマートフォンなどのガジェット系の研究と、MRについての論文の下調べをしています。

 僕も吉田くんと一緒のチームでIVRCに2回出場しました。自分が担当したのは、テーマや企画書づくりといった基本的なプロジェクトの流れと、デバイス部分の開発のアイデア練りです。プロジェクトチームは、多いときには10人くらいいたので、それぞれの得意分野を突き詰めていったらよりいい感じになりました。最終の展示では、自分たちのVRに込めている想いや理念はしっかりと形にできたと思います。

 学生時代に課されるタスクや仕事というのは、決められたものを期限までに提出するだけですよね。でも、IVRCなどの外部イベントというのは、4月の学期が始まってからスタートして、提出するのは秋なんです。そういう長期間のプロジェクトを、自分たちで考えてやらないといけない。アイデアの立案と時間軸での計画、役割分担、できる・できないの可能性までを自らで出し、磨き、形にしないといけない。これは普通の学校生活ではあり得ないことだし、大学生活でもそこまで長期間のプロジェクトというのはなかなかないので、高校生活の数理研在籍ならではの経験ではないかなと思います。あとは、IVRCという同じ大会に2年連続で出場し、中1からの5年間の積み重ねとは違う、大きな発表の場で競うという経験が成長を促すという実感があります。

 将来ですか? 大層なことは言えませんが、趣味は趣味としてやっていくし、できれば仕事にも関わらせたいという感じです。具体的にこの職に就きたいというのは、いまのところありません。

 ただ、5G通信などの通信分野とMRを掛け合わせた可能性に興味があって、自分の論文のテーマにも選びました。通信速度が上がることによって起きることは、動画の映りが最適だとかWebページの読み込みが速いとかいうだけに止まらず、大きなコンテンツとしてもできることがどんどん増えていく。それがいま、リアルタイムで始まっているので、それを調べ尽くし、学校生活の集大成という形で論文にチャレンジしたいと思います。




取材・文:堀 香織  撮影:小林敏伸


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