進学校として名高い灘中学校・高等学校の伝統や精神は、現在の教育の現場ではどのように具現化されているのでしょうか。

後篇では、生徒の好奇心を伸ばす重要性、またコンピューターを使った教育の捉え方や時代の変化に合わせたテクノロジーとの付き合い方についてお尋ねしました。


── 灘中学・高校の生徒には、どのような特徴がありますか?

和田孫博(以下、和田)物心ついたときからずっとコンピューターやスマートフォンに触れ続けているデジタルネイティブである、というスペックの変化はありますが、本質的な中身はそんなに変わりません。基本的には好奇心旺盛で、自分の個性を伸ばすことに積極的な生徒が集まってくるところは不変だなと感じています。

 学校としてもせっかくの好奇心を阻害しないよう、補習などをほぼせずに、夏休みもたっぷりとって、スポーツ、読書、趣味などの自由な課外活動をたくさん行えるように配慮しています。

── 個性を育む環境を整えることで、どのような人材が育成されるとお考えですか。

和田 未知の課題を克服していく「真のグローバリスト」です。

 真のグローバリストに必要なのは「異文化コミュニケーション力」と「多様な人と協力して課題解決する能力」です。そのために必要なのは学校がアクティブラーニングの場になること。土曜講座もその例ですが、ほかにも例えば生物研究部は近くの川に採集に行き、学校に戻ってきて一緒に解剖したり、生態を調べたりする。そのための解剖の道具、生態を調べるための資料を豊富に取り揃えています。

 テクノロジーについても、情報・技術の授業でパソコンの使い方を教えますが、さらなる興味のある生徒には、土曜講座などで専門的な知識を持つ教員・OB・社会人から学べる機会を設けています。

── 伝統的な教育方針を保ちつつ、コンピューターを使った教育も進められているということですね。何か特別気をつけている指導などはありますか。

和田 前述のとおり、いまの子どもたちはデジタルネイティブですから、学校で指導しなくてもすでにIT機器を使うことができる。そのため、本校では、ICTは生徒に使い方を教えるものではなく、教務・校務の省力化に利用するものと捉えています。出席簿管理システムの開発や、大学入試改革に伴うeポートフォリオの活用などが、その具体例です。

 また、生徒が校内でコンピューターに触れる例としては、「時間割変更板」を校内2か所に映し出す動画を配信していたり、PC教室およびICT教室においてモニターを見ながら英語の授業を受けたりしています。各教室にも、50インチと小さいですがディスプレイを設置していますし、移動式のプロジェクターとスクリーンを使用する教師もいます。もちろん黒板とチョークが大事という先生もいますから、うまく折り合いをつけながら併用しているというところでしょうか。


 現代では最先端の技術とされているものも、社会全体が進化していくと、その技術をもっているだけでは通用しなくなってしまう可能性もあります。20年後、30年後の世界を想像したとき、いま最先端と考えられている専門・細分化された特殊な知識・能力を身につけるよりも、どんな時代や技術にも適応できる人間力を養っていくことの方が重要なはず。では、その「人間力」をどのように育てるか。やはりそれは基礎的な学力や教養を身につけて、課題解決の素地をつくっていくことに帰結すると考えます。

── コンピューターのリテラシー教育についてはいかがですか。

和田 リテラシー、つまりテクノロジーを使うためのルールとやマナーを学ぶことは非常に重要です。いま本校でトラブルがあるとすれば、頻度は低いけれどSNSのトラブルがメイン。使い方を一歩間違えれば、自分や他人の人生に間違った影響を与えてしまうということを覚えてほしいですね。ですから、必ずしも情報の授業だけでなく、場合によっては家庭科の授業などでも身につけていくべきと考えています。

── テクノロジーがもたらしている恩恵はどのように感じますか。

和田 デジタルネイティブの生徒を見ていて感じるのは、我々の世代がAIに対して持っている不安や恐怖とはだいぶ違うものをもっているということ。それらを活用して自分はどうするのか、という一手先に進んでいるんですよね。

 例えば、放課後も昼休みも機材は使っていいことになっているので、趣味の深掘りをする生徒もいるし、それに付き合えるだけの教員やSEもいる。ロボット製作やソフト開発のできるクラブに入部している生徒もいる。多様化する興味に合わせ、それを伸ばすために学校ができることを補助しているという状況です。とにかく、安心・安全な環境が整えることで、生徒はめきめきと育っていくので、頼もしいかぎりですね。

── 最後に、子育て中のお母さんへのメッセージをお願いします。

和田 まず、「子どもは親の背中を見て育つ」と言いますから、親御さんがどうあるかというのは子の成長にとって重要です。


 テクノロジーに関して言えば、我々の時代だと「テレビなんか見たら馬鹿になる!」と見させなかったり、いまでもテレビゲームやネットサーフィンをさせなかったりする親御さんが多いけれど、なんでも勉強の邪魔になるからと取り上げてしまうと、本当に時代に取り残されていく可能性がある。子どもが好奇心をもったときには、その芽を摘まずに、伸ばしてあげてほしいですね。とにかく子どもの芽をつぶさないこと。興味・関心のある内容についてさらに詳しく調べたり、多くの体験や経験を積めるように手助けするために、親御さんは環境を整えたり、機会を提供してあげたりしてほしい。特に、興味・関心を深掘りする際に、テクノロジーは必須な時代ですから、リテラシーなども含めて、ご家庭でもとことん話し合いをなさったらよいと思います。

河内一樹先生インタビュー

 2002年度より、土曜日に開講される特別講座「土曜講座」を行っています。

 土曜講座の目的は、生徒が、通常の必修科目やカリキュラムだけでは知り得ない社会のさまざまな仕事や分野に触れるきっかけをつくること。すべての講座には、本校のOBをはじめ、その分野の第一線で活躍する専門性の高い方をお招きし、中高生には多少難解な内容であったとしてもトップレベルの実技や講演を行っております。2018年度の後期には、辻調理製菓専門学校講師による「料理初心者のためのイタリア料理講座」や三菱商事の社員による「総合商社で海外と仕事をすること」など31講座を実施しました。また、OBが自ら土曜講座の講師となることを希望する場合もあり、各業界のトップクラスの層に卒業生がいることも灘高の財産です。受講する生徒にとっては、大学や仕事などの進路を考える一助となることでしょう。

 土曜講座の開催頻度は6月の土曜日の3回と、10月の土曜日の3回。高校生1・2年生は、6・10月にそれぞれ1講座ずつ受けることが必須です。また、前期にあたる6月の土曜講座については、講座を通じて興味・関心を持ったことについて調べ、レポートにまとめて提出することを課しています。

 受講する講座は、自分の好きなものを選ぶことができます。自ら選んでいる分、生徒も講座に積極的で、実技のあるクラスはいずれも大変盛り上がりますし、質疑応答も活発です。また、学年の枠を超えてクラスを設定していたり、中学・高校の共通講座もあったりすることから、先輩・後輩から刺激を受けられるのも土曜講座の特徴です。

 2018年度後期の土曜講座で特に人気だったのは、本校OBで外務省人事課企画官による「外交官というキャリアデザイン」と「国際情勢を見極める」でした。また、理数系の講座のなかでは特に工学系の講座に多数の生徒が集まっていました。これらの傾向から、2018年度後期については、実社会で役立つ知識や技術に関心を持つ生徒が多かったという印象をもっています。

 また、人工知能に関する講座にも力を入れています。平日に行っている通常の授業でもコンピューターを使ったり、AIに関連したりする内容を取り入れてはいますが、土曜講座ではさらに深掘りし、「情報科学の面白さを体感! 〜OBトークとゲーム開発を通じて」という講座を行いました。趣旨は、情報科学やエンジニアリングの魅力を体感してもらうこと。講座では受講生をいくつかのチームにわけ、チームごとにゲームアプリの開発に取り組みました。

 土曜講座は、未知の分野に触れる機会になると同時に、自分の興味・関心のある分野についてはより高度で専門的な知識や体験を得られるものとして、生徒からも好評を得ています。





取材・文:吉田彩乃  撮影:野村恵子


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